一日目。
雪国に住んでいる。
今年の雪はひどい。もはや災害の域に達した。
愛車は雪に埋もれ、小高い山の一部になってしまったので、外出は徒歩。車社会の田舎在住にとっては、かなりの痛手。
そんなタイミングでレンタルDVDの返却期限がやってきた。車で10分の道。「ダイエットは明日から」と昨日宣言したお陰で、ひどい雪道を、サンドウィッチマンのライブDVDの返却のために歩く決心ができた。
30分かけてたどり着いたレンタル店でコメディ作品を返却し、その足で洋画コーナーに向かう。「プラダを着た悪魔」「プリティ・プリンセス」、冴えない女性が見違えるほど美しくなる、そんな作品で自分を奮い立たせたかった。
アン・ハサウェイは初めから冴えてるけど。
自分のメンタルを慰めるために「ブリジット・ジョーンズの日記」も借りた。わりと等身大なやつ。
帰りに寄ったスーパーで、サラダとアボカドと、ドライシードルのボトルを買った。
あと、フライドチキンも買ってしまった。
そう、決意した翌日から真摯に実行できる人間はそもそも中肉中背になんてならない。
プラスでポップコーンを買わなかっただけ、まだマシ。
帰宅すると午後1時。これからパーティーを始めるとボトル一本では到底足らないので、暇潰しに放置していた愛車回りの雪かきを始めた。
これがひどい重労働。二時間も苦戦して完了しなかった。残りはお日様に任せることにした。
その二時間の間、道行く知らない人に度々声をかけられた。
「ずいぶん積もってますね」
「ご苦労様」
その度に「はい、放っておいちゃって。頑張ります。」と苦笑する。
そんな中、集団下校中の小学生の列から、眼鏡をかけた小さな男の子がこちらへやって来て、私にこう言った。
「めっちゃセクシーやなぁ」
その顔はにやついていた。「セクシー?」と笑い返すと、ニヤニヤしながら列に帰っていった。
完全防備の防寒具に身を包んだ30歳の女に、彼はどんな「セクシー」を見出だしたのだろうか。末恐ろしいとはこの事である。
その誉め言葉は素直に嬉しいけれども、君が大人になるのを待っている時間が私には無い。
対象年齢を間違えたらしい。その件については、あり得ないくらいのサクセスストーリーとラブロマンスを眺めて、ドライシードルを呑みながら学び直したいと思う。
ブログ開設。
30年間、美人になりたいなんて、思ったこと無かった。
持って生まれたのは、下膨れの丸顔と、脂肪が多めの中肉中背、ペチャパイのファニーフェイス、おまけに大酒飲み。
「美人じゃないけど、君は愛嬌があるからな」
そう言われ続けて、ずっと満足してきた。
自分なりに、自分なりの生き方で過ごしてきた。
やりたいことや、やるべきことを探して、そこへ向かって走ってきた。
「好きなことして、生き生きしていいね」
そう言われるのもまんざらじゃない。
それが自分らしいと思ってきた。
そんな自分が気づけば30歳。
女は30歳から、なんて、本当に思ってた。いや、今も思ってる。
価値観は人それぞれ。
そんなこと言ってないで早く嫁に行け、なんて言われた数は知れない。
「自分なりに充実してるから」何を言われようが、気にならなかった。
そんな中、昨年妹が結婚。
心から祝福していた。
めでたい年が明けた、今年の正月。
実家へ帰り、毎年恒例の親戚の新年会。
そこで目の当たりにしたのは、想定以上に強い、私への風当たりだった。
朝から晩まで浴びせられた
「30歳独身にはなんの権利もない」
そんな扱い。
その言葉たちは私をこてんぱんに叩きつけて
自由に生きてきた自分はどこかへ追いやられ
ブスでデブで大酒飲みな自分へのコンプレックスだけで踏み固められた。
それから、私は復活できない。
ずっとずっと、「こんな自分」を責め続けてる。朝から晩まで。
鏡を見てはげんなりする。
辛すぎる。
この辛さから、逃げ出すには?
「こんな自分」から逃げ出せばいい。
こんな自分から逃げ出すには?
ブスでデブから逃げ出せばいい。
そう、美人になって、痩せたら、きっとこの憂鬱から解放される。
これは、切実な希望。
30年間、美人になりたいなんて、思ったこと無かった。
今、この憂鬱から解放されるために、きれいになることにした。
「努力」
一番嫌いなテーマだ。
けれど今、他に手段は無い。
せめてここで、日々どれだけ努力したかを吐き続け、
自分だけでも自分の頑張りを認めたい。
そんなことを考えながら、ワインが一本空きそうなところ。
ダイエットは、明日から。